【判例】沼津交通事件&八千代交通事件
今回は、「年次有給休暇」に関して争われた2つの判例を比較してみます。
- 沼津交通事件
- 八千代交通事件
なぜこの2つの判例を比較するのかと言いますと、判決つまり結論が逆だからです。
2つとも年次有給休暇取得に係る裁判で「労働者」vs「使用者」という構図になっておりますが、
沼津交通事件は「使用者」側の勝訴
八千代交通事件は「労働者」側の勝訴
となったのです。
まずはこの結論の違いをしっかりと認識した上で、2つの裁判の概要を話します。

■ 沼津交通事件
タクシー会社である沼津交通では、社員の出勤率を高めるために皆勤手当を支給していました。香盤表の予定通りに皆勤した社員には皆勤手当を支給し、欠勤日数に応じて皆勤手当を減額するというものでした。そして、「年次有給休暇」も欠勤扱いとして減額対象になっており、その部分が労働基準法に違反するとして無効を主張し、不支給分の皆勤手当の支払を求めて提訴しました。
先ほど述べた通り、この裁判は、「使用者」側の勝訴でした。つまり年次有給休暇を欠勤扱いとして皆勤手当の減額対象とすることは違法ではないとされたのです。
■八千代交通事件
タクシー会社である八千代交通は、労働者を解雇したのですが、その後その解雇が無効であるとして当該労働者は職場復帰しました。復帰後に当該労働者は5日間の年次有給休暇を取得し会社を休んだのですが、会社側は年次有給休暇取得の要件(前年出勤率8割以上)を満たしていないとして5日分の賃金を支払いませんでした。これに対して当該労働者が、年次有給休暇の請求権があると主張して、賃金の支払を求め会社を提訴しました。
こちらは「労働者」側の勝訴となりました。つまり、年次有給休暇の請求権が認められたのです。
判決のポイント
2つの判例の争点は、
「沼津交通事件」・・・年休を取得したことを理由に「皆勤手当を減額・不支給」とする会社の取扱いが不利益取扱いに当たるのか?
「八千代交通事件」・・・年休付与要件の「出勤率8割」の計算において、不就労日を出勤扱いとするべきか?
です。
そして、判決の根拠となった条文が、沼津交通事件では労基法第136条(不利益取扱い=努力義務)であり、八千代交通事件では労基法第39条(権利の保護)でした。
つまり、沼津交通事件では、年休取得と経済的不利益を結びつけることはできるだけ避けるべきであるが努力義務であり、今回のケースにおいては、「年休取得抑制の意図はなく、あくまで円滑な業務遂行が目的であること」「皆勤手当の額が小さいこと」などを総合的に判断して、このような不利益取扱いはできるだけ避けるべきであるが、無効とまでは言えないと結論づけられました。
一方の八千代交通事件では、「出勤率8割」の要件は本来、自己都合による欠勤を抑制することが目的であり、今回のケースでは解雇自体が無効と判断されており、今回の出勤率算定の対象となる不就労日が労働者の都合によるとは言えないため、出勤率を算定するにあたり全労働日に含めた上で出勤日数に算入するべきであると結論づけられました。
基本的には、年次有給休暇の取得の権利は保護されるというのが労働基準法の姿勢ですので、八千代交通事件のように労働者側が勝訴する流れは比較的理解しやすいと思います。こちらの判例は過去H26の選択式で実際に出題されています。一方の沼津交通事件の判例は、こちらも一見労働者側が勝訴しそうに思えるのですが、こちらは予想に反して「あくまで年休取得と経済的不利益を結びつけることは努力義務であり、総合的に判断すると今回の場合は会社側が不利益取扱いをしたとしても無効とまでは言えない」という意外な結果になっている点に大いに注目すべきです。
ちなみにこちら「沼津交通事件」の判例はまだ過去に出題されたことはありませんが、もしかしたら年次有給休暇取得のくくりで今回取り上げた2つの判例が対比で出題されるかもしれません。
もし、来年の本試験でそんなことがあれば、皆さん大ラッキーですね!(^O^)

